プロローグ

第5回の輝く人インタビューは、「ごみゼロナビゲーション」などで知られるNPO、アイプレッジの代表理事の羽仁カンタさんにお話を伺った。羽仁さんの活動には、常に「ワカモノ」の存在がある。目の前の「ワカモノ」、日本の「ワカモノ」の人生を真剣に語る姿から、たくさんの「ワカモノ」へのメッセージが込められていた。

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1.「『自立』を教えた母」

 

―どんな幼少時代・青春時代を過ごされましたか?

 

僕はアメリカ人の父、日本人の母の間に生まれたハーフなんだけど、当時はマイペースなおとなしい子だったみたい。最近、お袋と幼馴染だったっていう73歳のおじいちゃんと電話で話したら、お袋は僕を自立させようとしてたよって言われたんだ。僕一人っ子で…小学校の時、学校を休もうと思って、「お母さん、今日観たい映画が最終日だから、学校休んで観に行っていい?」ってお袋に訊くと、お袋は「いいわよ、自分で電話しなさい」って言うんだ。それで、「羽仁カンタですけど、今日お母さん風邪ひいて寝込んでいて…看 病するので学校休みます」「まぁ偉いわね、羽仁くんはお母さんのこと考えて」「はい、頑張ります」って電話して、そのまま映画観に行ってたんだよね。親が そんなことを仕込んでたよ(笑)。大学で留学していた時は、なるべく日本人の友達つくらないようにしてた。バリバリやってた自覚はなかったけど、「親が自 立させてくれていたから、おとなしかった子がアメリカでやりたいこと見つけて帰ってこれたんだ」って言われる。

 

最 近のワカモノたちは、社会的なルールに対して受け身だよね。「自分で考えて、挑戦してみる」っていうことをしないから、結局、既存のルールに対して「どう して?」っていう疑問しか生まれない。そう思ってる人はまだ良いのかもね。そのルールがあって当たり前で、制約されていることに疑問すら感じない人もいる んだろうな。そういう意味で、国民全体が、憲法9条が変わろうとしているのに何も言わないことも同じ。ちょっと前まで消費税もなかったのに。自分の買ったものの0.8割 が税金としてとられるのに文句も言わない。原発もそう。実際、自分の就職とかにものすごく関係しているのにね。ワカモノはこぞって日本にお金が落ちない外 国資本のお店で買い物しながら、自分の就職口がないって言う。もし日本で働きたいなら、日本製品を買わないと。日本経済の空洞化につながるような消費傾向 にさせられている。必ずしも、ワカモノが元々悪いかって言われたらそうは思わないよ。でも、自分の頭で考えないで消費させられている事に気付かないのは問 題。流行に流されてるのもよくないけど、「あれを買え、これを買え」っていうような流れが毎日のようにくるわけよ。今年はこの色の洋服が流行る、こういう のが似合うとか勧められて、全然自分で選ばせてくれない。

 

―ご自分で考えるアイデンティティは何ですか?

 

僕は14,5才ぐらいからアイデンティティについて考え始めてた。3歳 で両親が離婚しちゃったから、父のことだったり、何で離婚したのかとか、当時から考えてた。担当の弁護士を訪ねて行ったり。年一回、僕に会いに父がアメリ カから帰ってきた時には、「なんで別れちゃったの?」って訊いてた。自分は日本人なのかアメリカ人なのか、血は日本とアメリカの半分半分で…アメリカって言ってもユダヤで、父はイスラエルで生まれた米国への移民で…と か。「じゃあ、今度はユダヤってなんだろう」って勉強してみたり。自分のことを考えるのに、親のこと、ハーフであることを考えるのは外せないことだった。 結局、あんまりアメリカ人だっていう認識はないけど、日本人だともそんなに強く思ってない。日本にベースを置いて暮らしているけど、結局何人かって言われ るとすごく悩む。だから25才からは、地球人ってことにしたん だよね。大学生の時に、アジアを放浪旅行して、「何人ですか」って言われる度に、「あなたと同じ人間で地球に住んでます」って答えてた。日本人だと言って も、親父はアメリカ人で今はアメリカの大学に行ってて、ちょっと複雑。だから、「何人でもいいじゃん」って思ってきたんだよね、だんだん。だったら、「地 球人として、国に捉われないで、生きていこう」って思った。中身・興味関心をつくることの方がずーっと大事。ファッションでも同様。日本人って形から入っ ちゃう人が多い。出来上がった料理よりも素材とか中身の方が大事なのに。ファッションでもあなたに合う色を着ればいいのに、みんな「今年はこれが流行って る」って情報に左右されて消費させられていると思ったんだ。そういう商業主義の裏側を全然日本人が学ばないのはなんなんだろうな。

 

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2.「ワカモノの成長を見たい」

 

―仕事でやりがいを感じるのはいつですか?

 

日々感じているけど、やっぱりワカモノが成長したときかな。94年から始めた野外フェスの環境対策活動「ごみゼロナビゲーション」には、年間約1500人のボランティアが集まって、40人くらいの大学生が年間通してボランティアコーディネイターとして活動している。だいたい3年から5年在籍するこのコーディネイターはボランティアの中で中心的な存在で“コアスタッフ”(英語で中心)、さらにその中心にいるリーダーを“コアコア”と呼んでいる。職員4名を入れて10名くらい。“コアコア”を2年 やる中で、経験も積んで、活動内容も覚えた人が職員になることもある。メインは「ごみゼロナビゲーション」っていうフェスの環境対策。そのプログラムの流 れにワカモノの参加する場があって、自己実現しつつ、提案やディスカッション、失敗していく中で有機的な関係を築いてほしいと思ってるんだよね。今は若者 の人口が減っているし、弱くもなっている。自分の頭で考える力も弱くなって、探求心がなくなっていると思う。騙されて生きているというか、テレビCMの見すぎというか。もっと自分に挑戦をしてもらえるように、ツアー組んだり企画したり、いろんなことに取り組んでる。まぁやってみなければ分からないからね。本を読むだけでは全然ダメで、やってみたり、発言してみたり、失敗してみたり…そうすることで人は、ワカモノは成長すると思うんだ。

この20年くらいワカモノとの“サシ話”っていうのをやってる。二人(サシ)で話す時間をワカモノととるようにしているんだ。40人いる若いスタッフたちと最低年に1〜2回 ぐらい。僕がそういうオーラを持っているのか分からないけど、その人が今まで他人に話してこなかった挫折体験や辛かったこととかを僕には言っちゃうみたい なんだよね。実は親に殴られてる、男性不信なんですって恋愛話とかも。そんな何かを抱えているワカモノたちが成長していく…何をもって成長とするかは難しいけど、「段取りを踏めるようになる」とか、「目的を持って、周りに流されずに自分の考えや主張を持てるようになる」姿を見ると、やっぱり嬉しい。

 

 

―最大のピンチはありますか?

 

ピンチとか全然感じないんだよね(笑)。

 

―他の人から言われるけど、自分はあんまり思わなかった…そんなタイプですか?

 

あぁ、 思わないタイプ。全然思わない。「すごいことをやってますね」とか言われるけど、「いや全然!僕はやりたいことやってるだけだ!」って答えているよ。「今 日はラーメン食いたかったらラーメン食いに行った、お前はラーメン食ったらすごいのかよ」って逆に説教しちゃうぐらい(笑)。

 

僕 なんか、ワカモノたちがトラブルに見舞われている姿を見るのが楽しい。失敗したり、葛藤したりした方がその人自身が成長できる。でも、やっぱり「できない よ、えーん」ってなった人には、「大丈夫だよ、お前はできるよ」ってサポートして成長させる。目の前のチームのワカモノに時間を割きすぎていて、良くない かなとも思うけど。やっぱり、自分のチームのメンバーに僕は気持ちが向いちゃうんだよね。世間に発信するメッセージが素晴らしくても、自分のチームのワカ モノのことを導けないのならそれは本末転倒だと思う。

 

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3.「ありのままで」

 

―これから「生きる」ビジョンはありますか?

 

そういうのないね。A SEED JAPANを立ち上げて日本に帰ってきてから、あんまり先を見ないタイプになった。今の時代と複合的な中で自分って生きていると思 うんだけど、長期計画とか決めちゃうとそれに沿っちゃうと思う。今の時代をしっかり見て、いつも軌道修正できる状態が健全だと、僕は思う。意見を変えるこ とは良いこと。「間違っていた時に謝れるのはすごいね」って言われたりするんだけど、僕から見れば当たり前なんだ。「間違ってたから謝るって普通じゃ ん」って。

 

―これからチャレンジしたいことってあるんですか?

 

今の音楽フェスでの環境対策活動は20年 も続いていて、仲間からも信頼されて、ボランティアもいっぱい参加してくれる。そういう活動をもう一本二本つくりたいなって思っている。一つは、「東京で はくすぶっていて元気の出ないワカモノが、地方に行って、そこでその人も流行り、地域も活性化する」っていう事例をつくれないかなと。都会のワカモノに チャンスをあげたいんだ。世の中にはもっと楽しいことがたくさんあるのに、東京にいると、モノと情報がいっぱいあって、なかなか自分で選べない。やりたい ことがあるのにやらない人たちがいっぱいいる。でも、地方に行ったワカモノがなぜかすごく元気になっているってここ数年感じたんだよね。学生時代に2年ほ どうちのメンバーで活動していたワカモノで、東京で熱い想いをなかなか行動に移すことが出来なかった人が、たまたま北海道のごく小さいNPOに 就職したんだけど、すっごい元気になってた。田舎っていう場所が若者をものすごくウェルカムしてくれるみたいなんだよね。都会から田舎に若者が来てくれる だけでおじいちゃんもおばあちゃんもすごく喜んで、歓迎している。彼がやりたいって言ったことをしっかりやらせてくれるわけ。そこで15年1月に立ち上げたのが「プロジェクトアイターン」。今は、全国6カ所の受け入れ先があり、年に数回は当団体主催のツアーを組んだり、関心のあるワカモノが各自で訪問できるよう仕組みをつくっている。

 

もう一つは、 “ライフブビュッフェ”っていうのを2014年の秋からやっているんだ。34歳 以下の、大学生の身近な存在で、ちょっと面白いことをやっている人たちを紹介して、「旬な生き方をする人々」をビュッフェみたいにつまみ食いできるイベン トやフリーペーパー展開している。この企画を通して、「失敗してもいい、やりたいことに挑戦してみてもいいんだよ」っていうのを伝えたいと思ってる。会社 をやめて起業した人とか、学生時代にNPOか何かをやっていて 就職せずにそのままやっている人、企業の社員でありながら違うことにも挑戦している人とか、いろいろなパターンの人生を見せようと思っている。講義形式で 年に1回の大きなイベントを11月に、隔月でテーマを絞って小さなイベントを原宿で、年に4回は情報誌の発行をやっていく。ワカモノたちに冒険心を持っ て、日本の未来を、自分の未来を、希望を持って進んで創造してほしい。

 

「あ りのままの自分でいよう」、「みんな違って、みんなすばらしい」とかって僕がよく言う言葉。幼いころからよく親とかに言われていて、僕のポリシーになって る。自分を本当より大きく綺麗に見せようってするのは僕には大変。だから、誰も見下されたり、見下したりじゃなくて、誰とも対等に接し、共感の輪をもっと 作っていきたいんだ。