プロローグ 「アニメ」

 

輝く人インタビュー第1回は、杉山の友人であり、カメラメーカーにエンジニアとして勤める冨手さんにお話を伺った。

冨手さんはほがらかな笑顔が印象的であり、夢や仕事については更に目を輝かせて熱い想いを語ってくださった。インタビューは、幼少期に好きだったアニメと今の仕事との意外なつながりの発見から始まる。

 

「アニメを信じることで自分に『限界』という壁を作らない。架空の世界だから本当はできないかもしれないけど、いまだにできないことはないように思え る。だから、エンジニアとしてこんなものを作りたいとか思うのは、アニメや映画から夢をもらってできていると思う。」

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1 「夢・目標・行動力」

 

 ――将来の夢ができたのはいつ頃ですか?

 

「(一般的な意味での)夢は、ちゃんと持っていないように思います。でも、目標なら沢山あります。目標はいついつまでに成し遂げたいと思うこと。夢はお ぼろげながら、叶わなくてもいいからああなりたい、こうなりたい、と自分の中でもっているもの。全部叶えたいから、夢ではなく目標だと思っています。」

 

 

――夢や目標を叶えるためにしたことはなんですか?

 

「大学院を修了して社会に出る時、私は今の会社のある特殊な部署に入るのが夢(目標)でした。でも、その部署に確実に入るための方法なんてありませんでした。私がその部署に入るためには、まず今の会社に入社して、会社の人事を説得する必要がありました。

 

会社の仕組み上、全ての人が希望した部署に配属されるという訳ではありません。だから、どんなに頑張っても確実にその部署に配属される保証はどこにもありませんでした。

 

それでも、私は今の会社から内定をもらった後、当時その研究所の所長が参加する学会を調べて直談判しに行きました。所長には「なんとか内定をもらったの で、〇〇の部署に入れてください」と言いました。所長からは「最終的に人事が決めることだから、どうなるかはわからないが掛け合ってみる。」と言ってくれ ました。結果的に、その所長の働きかけのおかげもあり、なんとかその部署に入ることができ、最初の夢(目標)を叶えることができました。」

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2 「あきらめない」

 

――仕事において大切にしていることはなんですか?

 

「一番大切なのは、あきらめないこと。仕事をやっていると何度もうまく行かない壁にぶつかります。でも、あきらめなければなんとかなるものなんです。いつも思うのは、「なんとかならないことはない」。なんとかならないっていう状況は、実はそう長くは続きません。

 

火事場の底力じゃないけど、あきらめないで頑張っていたら誰かが助けてくれたり、自分の中で閃きがあったり、そういうことで結構なんとかなってきました。だから、絶対にあきらめないことが大切。」

 

 

 ――生きる上での仕事の位置づけを教えてください。

 

「それは生きることに繋がると思うけど、仕事っていうのは、なにかを生み出すことだと思います。それはサービス業でも製造業でも同じで、今の僕にとっては生きることは、仕事をすることと、それによって得られた対価で自分の家族を養うことです。

 

人生という長い目で見ると、生きるっていうのはその時々で意味が違うと思います。35歳の僕にとって仕事とは、家族を養うことです。そのためならどんな 仕事だってする。ただ、そこで仕事をして対価をもらうだけじゃなくて、その仕事がちゃんと世の中に貢献することだったり、自分の娘に誇れる仕事であること が大事だと強く思っています。それは、自分の中でやりがいというものに大きく関係があると思うから。」

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3 「登り易い山を」

 

――尊敬する人を教えてください。

 

「たくさん尊敬する人がいますが、中でもMIT Media Labでも教えを受けたことがある石井裕先生です。当時、一番ショックを受けた言葉は「技術は陳腐化する」という言葉です。例えば、今ある分野で世界一の 技術であっても、数十年経てばそれは塗り替わってしまう。認めたくはないけれど、それは事実だと思います。

 

石井先生は「技術は陳腐化してもコンセプトや哲学は生き残るから、自分は百年後に残るもの(コンセプトや哲学)を作りたい」と仰っていました。」

 

 

――過去と現在でエンジニアとしての考え方に変化はありますか。

 

「私は昔、技術やモノを生み出せる人がすごく価値のある人と思っていました。だから、自分はエンジニアになる道を目指しました。

 

でも、最近になってそれは少し違うということに気付きました。今のIT進化はとても早くて、少し経てばすぐ古いものになってしまいます。だから、何も想いの込められていないものを生み出してもすぐに廃れてしまいます。

 

単に機能的に優れたモノを作るということではなく、時代や使う人が変わっても変わらない何かや、自分の想いを込めることが、とても大切だと考えるようになりました。」

 

 

――富手さんにとって、「生きる」とは。

 

「石井先生の言葉で『創山力』という言葉があります。これは誰も登ったことのない山の頂に登るには、山を創るところから始めろ、そのための力だ、という 意味です。僕は誰かがその「山」を創ることも大切だと思っていますが、それと同じくらい、その山の存在を世界中の人に発信できる力も重要なんじゃないかと 考えています。みんなが登らないと、実はその山に価値が生まれませんからね。石井先生は、自ら山を創って、さらにその発信力があります。

 

でも、凡人の僕はどちらかというと、みんなが登り難い山を登り易くする方法を考えるのが得意な人間なんじゃないかと自分のことを分析しています。だか ら、自分の得意分野を見極めた上で自分ができる最大限の努力をして、後世の人たちが山に登るためにその山を登り易くすることに貢献したいと考えています。

 

これって養育にも繋がっていると思います。山を登る過程でドロップアウトしても、登り方が変われば登れるようになるかもしれない。そんな風にいろいろな 登り方を多くの人たちに提案したり、新しい技術を開発することで、支援していけたらと思います。それをできたら一生続けていきたいです。」

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